ぎゅぎゅっとてんこ盛り : 第6回 東博暢さん

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各分野の最先端の方々にお話をお伺いするインタビュー企画。今回のゲストは東博暢さん。株式会社日本総合研究所の中で、日本の成長戦略の基盤となる先進性の高い技術やビジネスアイデアの事業化を支援しイノベーションを推進する異業種連携の事業コンソーシアム「Incubation &Innovation Initiative」を組成し、アクセラレーションプログラム「未来」を企画・運営、統括をしていらっしゃいます。このような取り組みの中で見えてきたものや、企業連携のあり方についてお話を伺いました。

 

—持続的に成長し、次々に何かを生み出すようなカルチャーを作り出す。異業種を集めた企業の飛び地としてのIII—

 

ーー 東さんは、これまで日本総研でどのようなことをされてきたのでしょうか?

 

 基本的に好き勝手にやっていますね、多分、日本総研の中で一番自由に生きてます。元々、学生時代から個人事業やベンチャーのようなことをして業界に関わってきました。大学の卒業時期がインターネットバブル崩壊のタイミングで、特にネット系は、ベンチャーが一気に不況になった時期でした。そのままプレイヤーとして活動してゆくのは厳しい環境だと感じ、日本総研側でバックアップする立場になったというわけです。

 

 

ーー 日本経済の活性化ために、「Incubation & Innovation Initiative」(以下、III(トリプルアイ))を2016年の2月に発足させたかと思うのですがイノベーションのエコシステムはなぜ大切だとお考えですか?

 

 日本の経済は、戦後を含めてアメリカというビジネスの模範がありました。アメリカを参考に、追いつけ追い越せと経済活動をしながら、近しい系列がまとまって産業グループを組成し護送船団方式で、商社や商業銀行が取りまとめて海外に展開し、増え続ける人口で人海戦術的に産業規模を大きくして日本経済を成長させて、トップになりました。しかし、模範が有り、元々あるものを改良することが得意だったものの、日本から新しいコンセプトを提示することができずにいてその後苦労した。トップで居続けるにはコンセプト提示し、世界を引っ張りつづけることが一番大事でして、そのためには「オリジナリティ・クリエイティビティ・イノベーティブ」である必要がある。しかしこの三つを日本はあまり磨いてこなかった。
 PanasonicやSonyなどの当時のスタートアップも、ある程度安定して大企業化すると、サラリーマン経営で回り始めるが、新たな価値を創出するといった観点では、どこも創業者の後継者が見つからず日本全体で経済が停滞してしまった感があります。大企業も自治体も国も、参考事例が無い中ではリスクととって動けなくなる状態にある、つまり事例踏襲主義に陥ってしまい、自分たちのオリジナルのコンセプトを示すということが日本全体として出来なくなってしまった。
 組織を改革しようにも、日本の組織はどこも縦割りであることや、セクショナリズムにオペレーションすることがほとんどで、そうした仕組みを変えようとすると、内部から抵抗勢力も出てきてそう簡単にはいかない。また、個人が複数の持ち場を担当することになるので、忙しくなる、という理由で実現してこなかった。
 これらの背景から、従来の考え方を変えるべくIIIを立ち上げました。日本総研は元々、産業インキュベーションというVISIONを掲げて設立され、一から新しい産業を興すことを目指してきた。第4次産業革命期の今の時代に改めてその必要性に駆られ、それに共感する人がいたので、社外にIIIを作った。IIIのメンバーには、保険、商社、銀行、ものづくり、化学メーカー、家電量販店など様々な業界の人たちが参画しており、、緩やかな組織運営の中で、自分たちで当事者として考え、新たな事業を創造するを目指しています。
 「未来」はアクセラレーションプログラム、つまりスタートアップを支援すると共に、彼らと一緒に新しい事業を作ろうという取り組みを行っています。世の中にあるアクセラレーションプログラムと異なる点は、主催者がIIIであり、日本の異業種が集まった産業界ということです。IIIには、新しいことをやりたがっている熱量の高い人達ばかりを集めて、「未来」というプログラムを回しています。イノベーションのエコシステムが大切というよりは、これまでの日本には、次々に何かを生み出すようなカルチャーや持続的に成長するコミュニティが安定的に定着するモデルがなかなか創れてきていないので、その前例を作りたいですね。

 

—新しいアイデアやビジネス創発のために業種横断をした多様な組織体形成—

 

ーー 理想のエコシステムはどのような状態ですか?

 

 設計上は、できるだけ分野を散らすということを心がけています。
 その理由として、複雑系の研究の研究で一般的に言われていることですが、要約するに、物事が複雑になればなるほど新しい創発(アイデア)が生まれやすいと言われているからです。組織設計上、IIIの中にどのように複雑系を実装し持続的に機能するような状況まで持っていくかにチャレンジしており、出来る限り業種業界を横断したプログラムやプロジェクト組成をすることに注力しています。協力企業・団体には政府や自治体もいて官民連携も深まってきてますし、あえて組織体を複雑に設計しています。全く関係のないと思われていた業界が話し合うことで、お互いの知識がシェアされ、新しく面白いアイデアも出やすくなる、ということを意識的にやっています。一番気を使うのは、その場の設計です。複雑にしつつもヒントとなる道筋は示さないと混乱するだけですので。
 その理由としては、現在、第4次産業革命が起きて産業構造が変わっているからです。例えば、今や誰が自動車を作っているのか分からないですよね。自動車業界は、モビリティサービスに移行して、自動車業界という括りが無くなってきている。産業が変化する中で同じ既存産業が集まっても、産業構造が崩壊しかけているので意味がない。新しい産業を作ろうとすると、できるだけ異なる産業を組み合わせる必要があるのです。これから産業界全体では、産業のスクラップアンドビルドが起こります。なのでそれぞれの産業界で危機感を持っている人を集めて、自分たちで新しいサービスや産業を作ることを進めています。

 

—身軽さからマーケットの先駆者になり制度を変えてゆくことが可能なスタートアップ—

 

ーー 日本経済を活性化させるために、革新的なスタートアップにはどのような可能性があると考えていますか?

 

 スタートアップの一番の魅力は身軽であることです。スタートアップのサービスには新しいものが多いので、制度やルールが追いついていないケースがあるのですが、彼らはそういった環境を切り拓いていくことを得意としています。グレーゾーンでも怖いもの知らずでチャレンジすることは、彼らの強みとも言えます。大企業がやっていいか、全く分からずに動けないところを、スタートアップであれば開拓してマーケットの先駆者になれるので、その分野に対するスピード感はかなりあるでしょう。
 また、スタートアップは基本的には創業者が全ての意思決定者でもありプレイヤーであるので、彼らが自分事としての熱量を持って、どのようにしてビジネスを起こしていくかという思考で動くことができます。対して大企業の経営陣にはそのような発想が乏しく、自分たちが引っ張っていくという意気込みを持った経営者があまりおらず、上意下達的にオペレーションをしているだけ。両者のガバナンスは全く違いますよね。

 

ーー スタートアップが動きやすい環境であれば、ルールや制度がそれに付随して変わっていくのですね。

 

 日本でもスタートアップがどんどん出始めていますが、政府等が新たな制度検討をする時には大企業のトップを召集して重たい会議をしている。一方アメリカでは、医療業界のスタートアップがFDA(食品医薬局)と協力してルールを作る動きが始まっています。これから新しい産業を起こし、ルールを変えるために新しいスタートアップの意見を取り入れて、どのような制度設計をすればよいのかを真剣に検討しています。アメリカのスタートアップと比較すると、アメリカはスタートアップがこれからの市場ルールを自ら作ることを見据えて動き、世の中を変えようという気概を持って活動しているが、日本ではそこまでの気概を持った人がまだ少ない。これは日本の大企業にも言えることですが、 ルールや規制が自分たちと遠いものだと思っている様子が見えます。
 世の中にメリットがあるかどうかに踏み込んでサービスを作れば、ルールメイクすることができる。このような気概を持っていないとスタートアップは成長しません。Uberや Airbnbなどのシェアリングエコノミーが出てきて、世界的に疑問視されながらも徐々にルールが整備されてきて、結局彼らがビジネスをしやすくなっていますよね。

 

ーー 日本のスタートアップは活躍しやすい環境にあるのでしょうか?

 

 10年前に比べると、スタートアップにとって活動しやすい環境になっていますよ。日本のスタートアップもシリコンバレーやカンボジア、インドなどの海外で起業するようになっています。 日本で起業しやすいかどうかというより、 起業そのものをしやすい環境になりました。どこでも資金調達ができ、明日からでも起業できるので、日本というエリアに捕らわれずスタート・グローバル的な発想のほうが可能性も広がりますしチャンスも増える。起業家が流れに乗りやすい社会環境といえますね。

 

ーー 10年前と比べて何が違うのですか?

 

 10年前と比べてお金の流れがダイナミックになりつつあります。シリコンバレーは、昔から凄かったわけではなく徐々に今のような形になった。今はオースティンが盛り上がっていますが、昔は半導体産業でボロボロになりました。どのような場所でもボロボロの時代があった。
 ここ20年で、アメリカではAppleやGoogleなどのインターネット企業が急激に成長し、時価総額も上がり投資していたファンドが儲かった。そのお金がマーケットに入り、ぐるぐるとまわり出すことで、次にUberやAirbnbに入る。この一連の流れがここ20年で何度も周回しているのがシリコンバレー。
 シリコンバレーは一時期、ベンチャーキャピタリストが「ルールや法律を無視して突っ込め、カネは出す!」と裏で言っていて、投資家自身がルールにないことに取り組むことを推奨していました、少しやりすぎてましたが。今のシリコンバレーは落ち着いてきているので、次は日本です。アメリカの中である程度落ち着いたら、日本に来るという流れが良くある話ですからね。

 

 

—スタートアップのアイデアと大企業のリソースを活用して新しい産業を生み出す—

 

ーー IIIの異業種コンソーシアムの活動は「未来」以外にどのようなものがありますか。

 

 「未来」の他に二つほどやっていて、一つは異業種で集まってスタートアップの事業化支援。二つ目は、IIIの中で研究会を作っています。その中で、例えばブロックチェーン、ロボット、IoTなど新しいテクノロジーによって、どんな新しいサービスを作れるかということを、IIIに属する大企業が異業種間で調査研究し、新たなサービスの事業化検討しています。
 最近力を入れているのは、都市開発やまちづくりなどです。ニューヨーク、サンフランシスコなどのベンチャーキャピタルもスマートシティ関連サービスに関する投資が盛んになっています。まちづくりやスマートシティぐらいテーマが大きくなると、モビリティ、シェアリング、IoTのセンサー活用、ヘルスケアサービスなど、産業もフルパッケージで揃い全体投資額も大きくなってくるんで、まさに様々な業種・ステークホルダーが集結します。そのような状況で、大企業だけでサービスを作るのは難しいので、オリンピックもあり都市開発ラッシュが続く日本においても、スタートアップに期待し、まちづくりの文脈の中で、スタートアップと大企業が連携した事業創造を行ってます。

 

ーー 大企業に期待することはどのようなことですか?

 

 基本的には役割分担です。
 スタートアップに足りないものは、リソースと資金で、それが調達できれば別ですが、大企業がそれを持っている。それとは反対に、大企業には身軽さがないのでそこは分担ですね。スタートアップが新しいアイデアを考えた本当はまりづくりに参入したいと考えていても、話をする相手が分からず、リソースもありません。しかし、大企業のまちづくり担当部門が、このサービスを入れてみようと提案すると、街全体にそのサービスが浸透します。お互いに手を組むことで、早く展開することができます。
 「未来」で一番注力していることは、IIIはベンチャーキャピタルではなく、大企業の連合体ですので、スタートアップに如何に早く売上を立てて実績を作れるようにサポートできるか、つまり 取引を作ることを意識しています。今の日本のスタートアップは資金調達が盛んですが、投資を受けた後どうするかということを考えなくてはいけない。 ベンチャーキャピタルは端的に言うと基本的に安く買って高く売るので、スタートアップの新しい株を早く入手して、株式を大企業に売却し利益を得てEXITするか、上場させなくてはなりません。そのためにはスタートアップが売上を立てて、固定客を作って安定しなくてはならない。結局は資金を得たところで、顧客がいないと潰れてしまうので、大企業や産業界がスタートアップの顧客になれば、安定的に収益が立つ上に、より新しいアイデアを現実化することができます。極論するとベンチャーキャピタルのお金がなくても、売り上げでスタートアップの経営を成り立たせることも可能です。
 日本総研は三井住友銀行グループなので、日本の産業界の金融全体の流れも見ています、つまり、取引を作るということが得意なのです。金融業界でのビジネスマッチングやM&Aなどクライアントの紹介を通じて商売の流れを作ることをやっています。商流が出来ると、大企業もスタートアップも一気に加速します。
 今の問題はスタートアップだけが加速して、大企業だけが遅いことです。しかし、この二つを引き合わせることでどちらも早くすることができる。実行には大企業とスタートアップの両方の言葉や文化を理解している触媒となる通訳者のような人が必要なのですが、このような役割を担う人が日本にはまだまだ少ないのです。ジーパンを履いた若い人が、大企業の社長のところにいきなり行って事業の提案をしても、取り合ってもらえることは少ないのですが、IIIは大企業の飛び地なので、ハブとして仲介ができます。IIIを通してスタートアップとビジネスを行う場合は、大企業各社に持ち帰ってもらっています。

 

—みんなが「いいな!」と思う流れを作れるが企業の外部機関—

ーー IIIの設計をする時に気をつけたことはなんでしょうか?

 

 IIIはあえてぼやっとした飛び地として設計しました。日本では、大企業がスタートアップ企業との連携を決定するためには、社内説明が大変だと言われています。しかし、IIIなどで何だか盛り上がっているらしい、みんなが良いと思う風潮があればのってきます。それが弱点でもあるのですが、日本ではみんながいいと言うものを好んで選ぶ傾向があります。今の傾向を見てみると、一社のスタートアップに様々な会社が投資をしています。皆が評価したところに一気にお金が動くようになっています。本来は、一社の単独投資の意思決定が出来るまで日本がマチュアなればよいのですが、まだまだこれからですね。
 日本では失敗したら責任を取らされるというようなネガティブな発想が根本にありますが、新しいことは大抵失敗するんです。日本には新規事業が山ほどあって、それが全部成功したら日本はとんでもないことになります。日本企業は失敗を恐れ、自信をなくし、自分たちで判断をしなくなったのでしょう。その勢いのなさが新しいものを作ろうという流れの妨げになっているのです。

 

—サイエンス分野の技術を事業化しグローバルに展開することに期待—

 

ーー これまで、「未来」を行ってきた中で、どのような気付きがありましたか?

 

 日本のスタートアップも色々なプログラムや制度が用意されているので、年々ベースの能力は上がっていますし、海外志向も強まっています。
 ここ直近で増えてきた分野は、メディカルヘルスケア系です。5年前位から ICT やネット、情報通信などの分野は、ある程度落ち着いてきたので、目新しく面白い事業はあまり出てきてない。ですが、この分野を見ていた投資家などが、科学技術の領域に目を向けだし、バイオテクノロジー、再生医療、ゲノム解析、半導体、マテリアルサイエンスなどのディープテックやヘビーサイエンスに着目していて、昔日本が得意だった、ものづくりベースの技術に注目が集まり始めています。今のトレンドには、まだ十分に進んでいない産業にデジタルテクノロジーを活用するX-Tech(クロステック)がきています。
 また、サイエンスの事業化は社会的にインパクトがあるので是非やってほしいですね。ネットは足回りが早く、2~3年でスケールする一方で、サイエンスの事業化は、長いものだと10年から15年かかる。例えば、バイオテクノロジー企業である株式会社ユーグレナ、ロボットスーツを開発しているCYBERDYNE株式会社、バイオベンチャー企業であるペプチドリーム株式会社が創業から現在のような成長を迎えるまでに大体10年かかっている。3社とも、一時、時価総額4000億円くらいだった、ペプチドリームは現在7000億近くある。3社でマーケットバリュー1兆円ぐらいをったたき出しているわけです。ICT分野の人たちを束ねても、3社で1兆円にはなかなかならない。難しいサイエンスを事業化して、特許取得し知財で固め、グローバルに展開しようとすると、それくらいの時価総額がつくんです。それくらい大きい話は、我々も金融業界としても注目していますので、そのようなところを支援したいです。

 

—課題解決のためにお医者さんも起業家になる時代—

 

ーー そのような企業を支援することで、世界と渡り合えるような企業になってゆくのでしょうか?

 

 世界的にユニークな企業が出てくるでしょうね。大変なことは多いのですが、それらを乗り越えることができれば、すごいビジネスになるでしょう。
 日本の特徴としては医者の起業が増えましたね。 アメリカの場合は病院にデータサイエンティスト的なエンジニアがいますが、日本の病院の現場には医者しかいないので、本当はこれができてほしいだとか、こんなものがあれば命が助かるのに、といった問題を医者自身が抱えています。
 スタートアップで大切なことは、どのようなペインを解決するかという考え方。その社会課題が大きければ大きいほど良いです。医療や介護現場は酷い状態で課題も多く、患者が多いのに人が手足りないだけでなく、高齢化で現場が回らなくなっているという現状があります。医者はもともと、人命を救うことを本業としているので、自分たちで最も重要な課題解決をする為に会社を立ち上げてソリューションを作り、自らのクリニックでうまくいったら他のクリニックにも提案するというモデルが生まれてきています。ビジネス的な考え方も堅実で、医師の方々がすごく真面目にビジネスに取り組まれているのが面白い傾向ですね。

 

 

—視野を広げて高みを目指してもらうために手厚いサポートが行われる「未来」—

 

ーー 「未来」の最終審査会などにいるメンターの役割は、スタートアップに視野を広げてもらうために行なっているのですか?

 

 メンターをつけるのは、視野を広げ視座も高く持ってもらうためです。スタートアップで最初の計画を立てる時に、壮大なビジョンを書く人もいれば一つの問題を扱う人もいます。しかし、例として医者の場合はその世界しか知らないので、起業してビジネスをやっていく上で、見ている世界は狭くなってしまい、他の業界のことを知らないままなので、できるだけ視野を広げて高みを目指してもらっています。この活動の理由として、前提となる知識があればビジネスを変えることができたのに、と後から知って後悔しないためです。
 さらに場合によってはルールを変えるため、一緒に行政に掛け合うサポートもしています。スタートアップは国との接点を最初から持っているわけではないので、日本総研がもともとシンクタンクである立場を生かして交渉のサポートをしています。

 

ーー 「未来」に応募されてきたアイデアは、プログラムの途中で変化するのですか?

 

 変わりますよ、実際に事業をしていても変わりますしね。さらに面白いことをやるために全く違う形態になるところもあります。新たなアイデアで資金調達し直す企業もあります。

 

ーー 今まで「未来」の中で印象的だったアイディアはありますか?

 

 これもまた医者の例なのですが、 元々友人と今の医療業界も医者の起業が増えましたねという話をしていたんです。友人は睡眠障害専門医で、睡眠障害をスマホのアプリを使うことで薬を飲まずに認知行動療法で治すというサービスを開発しています。その過程でブロックチェーンの技術を知り、もともと臨床治験で患者のデータを取っていたこともあり、その情報をブロックチェーンで管理し、臨床治験から上市までのプロセスをブロックチェーンを活用して効率化できないか?というアイデアが出てきました。すると、ブロックチェーンに書き込んだ臨床治験のデータ基盤を提供するプラットフォームが作れないか?という全く違うビジネスモデルができたんです。睡眠障害以外にも、臨床治験のマーケット全体にも使えるのではないかという話に発展し、さらに研究開発も進み、ブロックチェーンのエンジニアが入ってきました。
 医療業界ではなく、他の産業もそうですが、日本の法律やガイドラインはブロックチェーンを使うことを想定していなかった。法律にも分散台帳について書いていないし、むしろ分散は良くない、集中・一元管理だという文脈で書かれています。ブロックチェーンが出てくる前であれば当然と言えますが。ブロックチェーンでデータの分散管理といきなりいわれても、法律には書かれていない。この流れの中で面白いことは、書いてなし、良く分からないグレーだけどチャレンジしても出来ないことはないという点です。明確にルール違反ではないのですが、動いていいのかわからない場合は、日本の大企業だと動くことができない。しかし、グレーゾーンでも開発をすすめると、政府が革新的な新事業を育成するために、現行法の規制を一時的に緩和する規制緩和策を講じたり、今話題のレギュラトリーサンドボックス適応になりうることもあります。なので、現在の制度上できないといってあきらめる必要はなくて、本当に社会が必要としてニーズがあるならば、制度側を今の時代にあった形に変更するなどのトライアルしやすい環境になってきています。この状況はスタートアップにとって追い風、良いことです。
 サンドボックスを作って、上手くいったらそれをうまく展開して安心して新しいチャレンジができる環境を作ることが政府の重要な役割です。日本全体にこのような環境が整ってきたことは良いことで、政府も変わってきたということ。スタートアップとの付き合い方に慣れてきたのではないでしょうか。

 

—世の中を変えるというようなインパクトがある事業を様々な方法で支援することで日本の産業全体を底上が可能に—

 

ーー 「未来」で最終審査会に出られなかった人たちにも成長するチャンスはあるんでしょうか?

 

 「未来」では、ファイナルに残らない企業でも、今回受賞していない企業でも、書類審査を突破した時点から支援します。 相談にも適宜乗っているので、ファイナリストに残らなくても資金調達したところもあります。ピッチコンテンストはあくまでも選ぶ側の基準で審査をしているだけなので、どこが良い悪いではないんです。なので、「未来」では最優秀賞を作っていません。各部門で票が集まったところをトップにしているだけで、点数制にすると全く違ってくるでしょう。我々は金融業界が母体なので、全産業の面倒を見ることを心がけていて、食品加工をやっているところなども含めて様々なジャンルから選んでいます。日本の産業全体を底上げしないといけないので、この点は、他のコンテストなどと比べて特殊でしょう。

 

ーー 継続して支援を続けることで、スタートアップ人材の質の底上げにも繋がっているんですね。

 

 「未来」に感化されて自分も起業しようとする人も出てきたので、「未来」は起業に対する精神的なハードルを下げているように感じます。今では学生でも起業しようと思えば明日からできる環境があります。我々も、世の中を変えたいというような意気込み、インパクトのある事業は支援したいです。

 

ーー 「未来2018」の中で行われた特別な取り組みはありましたでしょうか?

 

 本来であれば、日本の政府に作ってもらいたいのですが、今年からGAPグラントという賞を設けました。これは、スタートアップが様々なチャレンジをしていく中で、使い勝手が良いお金が無いことによる機会損失が多いという問題点に着目して設計しました。
 特にテクノロジーやバイオ系では、投資家との資金調達の交渉の際に、これは特許を取っているかどうか、プロダクトは出来たのか?問われ、それがないと資金調達の交渉にも入れないことも多いのですが、スタートアップにはその特許取得や試作品作成等の資金が足りていません。また、大学等の研究機関や政府や自治体の補助金は使い道が限られていて活用が難しい。当然、民間企業はそのようなところに資金提供はしません。このように、最初の段階でアイデアを事業化するために陥るギャップがあり、それを埋めて次に行く為の資金が必要になる。それで今年から、未来では一社あたり上限200万円の資金を5つの会社に、計1000万円提供するGAPグラントを組成しました。例えば簡単な試作品を作る、海外ライセンスの取得、海外との知財交渉するため渡航費など、次のステージに行くために使ってもらうことを目的とした自由度の高いお金を用意しました。
 GAPグラントは、未来の二期目で試しに小額の資金援助をしたところから生まれました。具体例として2つあって、1つはゲノム編集のスタートアップの例で、当時、アメリカでUCバークレーとMITとの間で、CRISPR-Cas9知財訴訟がありました。そのスタートアップは西海岸側とは話ができていたのですが、MITとはできていなかった。万が一、話ができていないMITが負けてしまった場合は、ビジネス的にリスクとなる。なので、MIT側と交渉をしてもらうために資金面で支援し、有効に活用できた。
 もう1つの例は、今回登壇したフードピクトさんで、彼らは元々NPOでやっていたが、アメリカニューヨークで開催されたフードテックの国際会議に参加し、世界のフードテックが既にブロックチェーンを取り入れサービスを開発しだすなど、非常に進んでいることに気づいたため危機感を持って日本で会社を立ち上げられました。いち早くアメリカの状況を掴んで、日本でスタートアップを起こした事例です。

 

ーー GAPグラントはどのような基準になっているのですか?

 

 資金提供の基準は、どのようにお金を使いたいのかを書類で出してもらって意味があると思う所に提供しています。優秀賞に資金提供しているわけではなくて、危機を乗り越えるために一番うまいことにお金を使ってくれそうな会社に提供するようにしています。優秀賞は箔が押されているので、どんどん取引を作って売上を作る為のサポートする方が200万程度の資金提供よりも良よほど良い。なので本当にお金を渡すべきは、課題を抱えていて、乗り越えれば面白い展開が可能だが、誰もそこを支援してくれないような企業に提供することを意識しています。

 

ーー IIIのコンソーシアムではどのような政策提言をされてきたのでしょうか?

 

 まちづくりに関してはIII側から、総務省や経産省や内閣府に話を持ち掛けています。IIIから話をしたのはデータ活用の推進です。
 海外のスマートシティと日本のものとではコンセプトが全く違います。海外ではデータを活用しながらスマートシティを推進していますが、日本はエコシティ、エネルギーに寄っています。精度の高いスマートメーターを張り巡らせて電力の流れを最適化できるスマートグリッドの送電網設置や、自動車に対する情報配信をするテレマティクス、人と道路と車両とを情報で繋ぎ、交通事故、渋滞などといった問題の解決を図るITSにするなど、どちらかと言うと電力や交通などのネットワークレイヤーの合理化を図っています。海外の様にプラットフォーム側にデータを集めて、上位レイヤーでサービスを作ることや、シェアリングの導入については、まちづくりの計画の中には入っていなかった。でもヨーロッパやアメリカや海外ではそうなっていますよね。
 IIIが産業界として、そのようなものを作ってはどうかと話をしていて、それにはスタートアップがいなくてはいけないという流れになり、まちづくりにもスタートアップを入れてくれと言う提案をしました。今、総務省ではスタートアップを交えてまちづくりのイベントをしたり、有効活用する動きになっています。

 

 

—エコシステムを広めて他のエコシステムと組んでお互いが刺激を受けて大きくなってゆく仕組みを作る—

 

ーー コンソーシアムの活動について今後の展開を教えてください。

 

 出来る限り創発的なアイデアや新しいビジネスや産業が生まれてくるような形態を維持する、というコンセプト自体は変わりありませんが、IIIも「未来」も細い活動方針は毎年変えています。これは日本の大企業にはなかなかできないことで、一度組織や研究会、コンソーシアムを作ってしまうと潰せないのです。しかし、IIIにある研究会は、IIIという大きなコンソーシアムの中に、ミニチュアコンソーシアムを作っているのですが、今は世の中の変化が激しいので細い検討内容については毎年見直しており、III内部の組織の統廃合は毎年行っています。時代遅れの分野があればコンソーシアムから外したり、新しい検討内容があればその分野を立ち上げるなど、組織内で研究会をコロコロと変えて新しいものをどう生み出すかを考えています。
 「未来」でもいろいろと試行錯誤していて、支援方法とか、前述したGAPグラントの新設など毎年何かしら増えています。今は、海外とのパイプラインを強くしているところで、今回はイスラエル大使館と連携し、イスラエルのスタートアップをセレクションして未来で登壇してもらっています。こうした事例をどんどん増やして、海外のエコシステム、コミュニティとのパイプライン構築を強めていきます。
 このように、我々のエコシステムを徐々に拡大させていくと共に、他のエコシステムとネットワーク化することを目指しています。我々は、我々のエコシステムをとことんまで広めていくという思想ではなく、他に継続的に新しいアイデアが生まれていたり、ユニークなメンバーが集まっているようなところがあれば、積極的に組もうという思想なのです。こうすることで、結果的にお互いが刺激を受けて大きくなることができる。それぞれ異なるエコシステムの中で、お互いに連携した方が効率が良い。IIIの活動で足りなければ、他と連携するのです。

 

ーー 今までになくなった研究会はどのようなものでしたか。

 

 モビリティの研究会がありましたね。ただ、モビリティを根本的に変えるならば都市計画から見直しが必要だと考え、まちづくりに吸収しました。
モビリティの場合、全体的にシステムやルールを見直すことを考えると、別の要因、例えば道路や建物の設計や電力共有スポット等に縛られるので、その根本から変えなくてはならない。なので、都市計画のやり方をまるごと変えようというような大きな視点での話をしないといけないですし、モビリティだけやってても面白くならないので吸収しました。

 

ーー 近々の目標はありますか?

 

 III自体が完成してないので、まずはこれをしっかり完成させたいです。少しずつ毎回モデルチェンジをしながら形を整えている段階で、まだ完璧なエコシステムはどのようなものかが明確にできていません。エコシステムを完成させるには、どのようなプロセスが適しているかについて、我々が自身で運営を行いながら探っています。IIIが一段落するまでは続けないといけなくて、一番の理想は、僕がいなくなっても回ることで、まだそこまで完成していないです。企業経営もそうなのですか、社長が代替わりをしても回るのかという話です。エコシステムは放っておいても循環する状態でなければならないので、個人に依存しない様にするのは難しいです。立ち上げた人たちに依存せず、次の世代でも回していくことができる、それが一番良いエコシステムで、属人的に依存をしているものはヒューマンネットワークの延長です。なので、自律的に回るようにして他に引き継げるようにしたいです。

 

—人間とサイバー空間の向こう側をつなぐインターフェースのデザインは日本の特技か!?—

 

ーー コンテンツ分野に対する期待はありますか?

 

 Gateboxが全てだと思います。人間と機械が情報をやり取りするための手段や装置などとして、ヒューマンマシンインターフェースがあります。サイバー空間との融合や超スマート化が進み、人間とインターネットが繋がった時のインターフェースはどんなものか。そこを開発するのは日本が一番強いと考えています。
 元々インターネットのサービスは、UI 、UX という点ではアメリカのものは整っていて使いやすく便利なものでした。しかしこの先リアルな空間とサイバー空間に融合し、その仲介するものとして、AlexaやGoogle Homeのように、本当に「あの筒!」の状態でいいのでしょうか。人間はこれからサイバー空間の向こう側にあるものとコミュニケーションするわけですが、その時に例えば筒ではなくキャラクターを介して向こう側と話をするなどもう少し愛嬌のあるインターフェース設計は日本の得意分野、クールジャパンの出番でしょう。日本のクールジャパンの方向性をこっちに向けてほしいですね。ヒューマンマシンインターフェースの開発には今後多くの資金が流れると思いますし。

 

ーー デスクトップ常駐型の秘書アプリを思い出しますね。

 

 それの延長ではあります。日本は昔からそういうことは得意ですよね。しかし、日本の悪い癖があって、すぐにコンテンツとなるとアニメ産業やゲーム産業といった具合に「業界」の枠に放り込んで、他の業界や産業との垣根が出来て結果的に連携しにくくなります。それを橋渡しする役割で広告代理店が入ってきますが、いちいち変化の激しい世の中ではむしろ非効率です。
 以前、ロボットアニメ製作のプロデューサーと話していたのですが、アメリカでは、Alexa と Google Homeみたいな機械と人間が話す場合に、機械は人間のサーヴァントのような立ち位置になるわけです。そうすると、例えば、いきなりAlexaから話しかけられたりしたら、なぜ機械の言うことを人間がきかなくてはならないのかという思考になる。なのでAlexaとGoogle Homeに対しては、「〇〇やって」というように、全て命令形になって人間が指示するという形をとるのが自然になったのではないか?と
 一方、日本の場合は機械から話しかけてくるタイプのインターフェースが多いです。スマホの羊さんが「おやすみなさい」と言ってきますよね。 アメリカ人にとっては機械に言われたことをやることは気持ち悪いようで、例えば、Gateboxのかわいいキャラクターに勧められたものに関して、日本人は購入するでしょう。しかし、宗教や文化的に異なる人たちにとって、人間ではないものから話しかけられて、それに対して行動を起こすということに違和感があるんじゃないか、という話をしていました。アメリカのロボット系の映画を見ると、ターミネーターを含め、基本的に破壊する対象としての思想が強く、日本のようにドラえもんやアトムと仲良くするストーリーはなかなか描けないのです。日本の思想では、人だろうがロボットだろうが何とでも仲良くできる思想が強い国なので、そのデザインが非常に上手なのです。出てきているロボットにも、目がクリッとして可愛いものが多いですよね。また、老人介護の現場でもそのようなものは多く入ってきていて、おじいちゃんおばあちゃんがロボットと会話しています。これは日本独特の感性で、違和感なく導入するにはどうすれば良いかということを考えるのが、日本のクリエイターは上手です。
 Alexaは、いろんなアプリを直接落とせるような状態に近づいてきています。そのような分野に、うまいこと日本のクリエイティビティであるデジタルコンテンツ系が入っていければいいですね。
 これからはスマホの次を考えなくてはならなくて、UIはすべて対話になってくる。自然言語のAI研究がアメリカでは盛んに行われてきました。そう遠く無い未来に、車や家の中に導入されてくるでしょうね。

 
 

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 主席研究員 / 融合戦略グループ長
Incubation&Innovation Initiative / 【未来】統括ディレクター
東 博暢(あずま・ひろのぶ)

 

ベンチャー支援や社会企業家育成支援、ソーシャルメディアの立ち上げを経て、2006年日本総合研究所入社。

情報通信分野(ICT)を中心に、PMI、新規事業策定支援、社会実証実験を通じた法制度改正・ガイドライン策定支援等を実施しており、近年ではICT融合領域として、ヘルスケア分野やスマートシティ分野の都市開発支援等のコンサルティング活動を実施している。

 

加えて、政府やSRI international等の海外技術系シンクタンクと連携し、大学・研究機関等を中心にロボット・AI・IoTやバイオ・ライフサイエンス等の科学技術の商業化を推進するオープンイノベーションプログラムを運営し、研究開発型ベンチャー支援や起業家支援に取り組んでいる。

 

更に、株式会社三井住友銀行と共に、日本の成長戦略の基盤となる先進性の高い技術やビジネスアイデアの事業化を支援しイノベーションを推進する異業種連携の事業コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative」を組成し、全体を統括。産業界主導によるオープンイノベーションエコシステムの構築に尽力している。