ぎゅぎゅっとてんこ盛り : 第4回 TELEXISTENCE inc.

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最先端の方々にお話をお聞きするインタビュー企画「ぎゅぎゅっとてんこ盛り」。今回はTELEXISTENCE株式会社の代表取締役 CEOの富岡 仁さんと、代表取締役 CTOのチャリス・フェルナンドさん(以下、敬称略)にお話を伺いました。TELEXISTENCE株式会社はテレイグジスタンス(遠隔存在) 技術を活用したロボティクス開発を行うベンチャー企業です。

 

テレイグジスタンスとは、人間が、自分自身が現存する場所とは異なった場所に実質的に存在し、その場所で自在に行動するという人間の存在拡張の概念であり、また、それを可能とするための技術体系です。東京大学名誉教授である舘暲教授によって提唱されました。
https://tachilab.org/jp/about/telexistence.html Tachi_Labより引用)

 

—距離的なコストを無くすテレイグジスタンスという技術を使った新規事業—

 

ーー 早速ですが、どのような経緯で会社を立ち上げられたのでしょうか?

 

富岡 テレイグジスタンスの技術的なビジョンは舘先生の系譜があるんですが、立ち上げた経緯は、立派な理由はなくて流れなんです。
 僕は前職が三菱商事で、2016年の8月末まで働いていました。当時、慶應義塾大学大学院メディアデザインにいたチャリスと南澤先生とVRの件で打合せをしていた中で舘先生ともお会いして、その時に先生からテレイグジスタンスについて相談がありました。
 今までアカデミックの中だけでやってきたものなので、社会で使える製品としてどうやって世の中に出すべきか。また、製品だけ出しても仕方がないので、事業としてどう成立させるかという部分で協力して欲しいというお話でした。
 僕としては、以前から事業の成長率が短期間で10x、20xになり、ある領域で独占的な優位性を築ける事業に興味があって、前職でもそのような事業に携わったことはなく、チャンスをずっと探していました。事業の飛躍的な成長は、新しいビジネスモデルと技術の組み合わせがないと実現できないのですが、テレイグジスタンスにはそれがあって可能性を感じたので、協力を決めました。

 

 

ーー 具体的にどのようなところに可能性を感じられたのでしょうか?

 

富岡 例えば、事業性から10x、20xの売上を作れるか見極める際に、技術なりビジネスモデルでで二番手の既存事業者より10倍、20倍優れていないと出来ません。。テレイグジスタンスの特徴の一つとして、技術的な理想形ができた時に、距離のコストを払わずに、今までと同じような作業を、あたかもその場に居るように出来るようになるという点に可能性を感じました。これが実現できれば、人の働き方で10倍どころか無限に近い改善が実現できると判断したからです。

 

ーー どのように社会に広まっていってほしいですか?

 

富岡 人の生活に資するような使い方、つまり市場のリアルな課題を解決し且つエコノミクスが合わないと、我々以外の事業者が出てこないで終わる。あくまで事業なので、打ち上げ花火的な使われ方をするよりは、用途と経済性を実社会にフィットさせ長期的に生活やビジネスの現場で使われてほしいと思っています。

 

—法人化によってコラボレーション相手が明確になり、広がった連携の幅—

 

ーー 法人化したことによるメリットやデメリットはありますか?

 

チャリス 僕らは2019年の半ば頃に、市場に製品を出すことを目指しています。それに向けてメンバーを集めて、フルタイムで開発ができる環境が出来ているので、法人化したことで開発にフォーカスしやすくなったと感じています。他にも、いろんな会社と連携したり、技術協力を頂くことができるようになりました。他社との連携の中でも、ネットワークやインフラと繋がれたことがありがたいです。

 

ーー 法人化により、連携しやすくなったということでしょうか?

 

チャリス お客さんや会社とは話しやすいと感じますね。大学のアカデミックリサーチの段階では、これからだれが使うのか、使わないのかが曖昧なまま研究されています。それと比較して今は、ビシネスとして商品をどんな人に何人に使ってもらうという数字を出して、使用目的を具体化しています。ゴールに合わせてコラボする先を明らかにしてマッチングできるので、連携は取りやすいです。

 

 

ーー 5Gの活用状況はいかがですか?

 

チャリス KDDIに出資協力してもらいながら話は進んでいます。実際にお客さんに使ってもらうところまではまだまだですね。5Gは高速に通信ができるので、電波が整ったら次の段階に行けますが、今はLTEや家庭にあるWi-Fi回線からでも接続できるものを作っています。

 

ーー KDDI以外にも、NVIDIAなどのパートナー企業との連携を行っているかと思うのですが、これらの企業との連携を行うことによるメリットはどのようなものですか?

 

チャリス NVIDIAのインセプションプログラムでは、技術的な協力や、開発を活性化するような物をもらえたりします。僕らもAIを使うつもりなので、NVIDIAが作っているAIのプラットフォームを使って、これから作るモノの検討をしています。

 

ーー ほかに連携したい技術などはありますか?

 

チャリス テレイグジスタンスに使うロボットは産業ロボットほど世の中に出てきてないんですが、その理由は信用できる前例がないからなんです。あったとしてもTELESAR Vのような研究段階のもの。僕らの第一段階の目的は、内部で作っているロボットを販売することなのですが、これを加速させるためには、どこかに一部の技術的な連携をしてもらうというよりも、同じ価値観をもったロボットメーカーとパートナーになり、一緒に作り上げていくことが重要だと考えています。テレイグジスタンスロボットの時代が来るか否かは、そこがポイントですね。

 

—アカデミックとビジネスにおける開発の捉え方の違い—

 

ーー アカデミックの開発と異なる点はありますか?

 

チャリス 今まではあくまでも研究段階のものであり、相当なお金をかけて一台を開発すれば良かったんです。しかし今後は、例えば安くする、耐久性を上げる、だれでも使えるといったことを目指しています。これまでとロボットの使い方は同じですが、実証実験も実施しますし、見た目やスペックに付加価値をつけることも検討していて、見た目はかっこよくなります。

 

富岡 技術以外の観点からいうと、解決課題や経済性が合えばそこに集まるお金や人にスケールが変わります。アカデミックは、時に解決課題が抽象的でその制約の中で研究をしていますが、事業だと技術で解決する課題が具体的で、経済性の重力に逆らってなければ、投資に対するリターンへの説得力が増し、扱えるお金の桁が変わります。その一方で、リターンを返さなくてはならず、研究とは異なりそれなりに重い責任を背負う必要がある。だからやれることのスケールも異なるし、当然開発しているモノの質も変わってきます。
 普及方法も重視しなくてはならない。これは大学発ベンチャーの良し悪しが分かれるんですが、ソリューションありきだと過去の事例はほとんど失敗しているんです。その理由は、ソリューションだけ考えていて、製品やサービスが市場に受け入れられた状態、つまりマーケットフィットを考えていないからなんです。マーケットフィットも、プロダクトとビジネスのそれぞれがフィットしないと、ソリューションだけがあっても資本が集まらない。そこを探すことがアカデミックと違い、きわめて重要になります。
 また、これから実施する予定の実証実験も、アカデミックと、ビジネスにおける意味合いは結構差があるんです。東大や慶應のような資金力のある大学が実証実験をやりますけれど、共同研究した会社や民間側は、次の可能性があればいいかな、といった希望を見据えてやっていることがあります。一方、僕らのようなスタートアップ企業が、実証実験をして次に繋がらない場合は限られたリソースを無駄にしているだけなのでかなり危機的状況になる。

 

 

—これからの開発の方向性について—

 

ーー 2019年に予定されている製品はどのようなビジネス形態ですか?

 

チャリス BtoBかBtoBtoCです。BtoCのように消費者をターゲットにするには様々なチャレンジがある。今はテレイグジスタンスというビジネスが無いので、提供する側はビシネスモデルから作る必要があります。色々と分からないことが多いので、いきなり消費者を相手にするのではなく、この技術はこういう場面で使えるということを明示してくれる企業と一緒にやりたいです。

 

ーー 最初の製品のターゲットはだれになるのでしょうか?

 

富岡 言える範囲で言いますと、「だれでもない」っていうビジネスモデルです。ご期待下さい。

 

ーー スレーブロボットの形は人型以外になることもあり得るのでしょうか?

 

チャリス 可能性はあります。テレイグジスタンスの意味としては、人が中に入り込んで、操作をそのまま続けていけるロボットが必要で、それにロボットの形は関係無いです。例えばビジネスパートナーと製品化をする際に、めちゃめちゃ安くしなくてはいけない、防水したい、重い物を持つ必要がある、といったような条件が出た場合は、設計を変更して必ずしも人間らしくない形での実現は可能です。

 

 

ーー 現在開発しているものはどんなシステムでしょうか?

 

チャリス 例えばTELESAR Vのシステムは、大きく分けてユーザーが動かす側であるマスターと、遠隔地で稼動する側のロボットであるスレーブの2つがあります。研究段階では1対1で繋がっていたのですが、お客さんの前で使うときには沢山の方が一斉に接続されます。これを可能にするには、だれでも使えるよう標準化して、マスターとスレーブを繋ぐ間にあるネットワークでは、だれが何を使うのかということを管理・割り振りをしなくてはならない。そのため、ネットワークのクラウドなどを作っています。なので、開発しているのは大きく分けてロボット、操作する側のコクピット、その間を繋ぐクラウドの3つです。

 

ーー これから開発しなくてはならない技術はありますか?

 

チャリス 研究段階で得られたモノは、ほとんどがノウハウです。これまではデモの成功率は決まっていましたが、一般の人が使用する場合は失敗出来ないので、今まで作ってきたものが、ハードウェアやメカニカルの設計や、電気システムから発生するソフトウェアのバグに耐えうるかを判断して、ゼロから設計し直さなくてはいけないんです。なので、研究時代から中身は大きく変わっていて、ほとんど作り直しています。大学でやった研究とゴールは一緒なんですけれど、ルートは変わっています。

 

ーー テレイグジスタンスの技術を使って参入したい業界やゴールなどはありますか?

 

富岡 業界云々ではないのですが、最終的なゴールとしては人間の生活の中に入れることが目標です。家庭の中から物事を遠隔で制御できるロボットを使い、人の生活に資するようなサービスをやろうっていうのがあります。これまでにそういう会社は無いので実現させたいですね。

 

チャリス あとはコミュニケーションロボットとは大きく違うので、作業に協力できて、人を助けられるロボットの実現させたい。他にも遠隔操作できるだけでなく、将来的にAIを使って、完全自動化でなくとも作業の一部をAIに任せて半自動化するとか色々と可能性はあります。
 最終的に目指していることは家に入れることなのですが、それ以外にも、医療や建築などたくさんの分野での活用があると思います。

 

ーー 一家に一台、欲しいですね。医療分野にもテレイグジスタンスの活用の可能性があるとのことですが、参入の弊害となるものがあるのでしょうか?

 

富岡 医療分野への参入における弊害として、ロボット操作のための技術的な問題というよりも、遠隔医療に診療報酬の適用対象が限定されていることが挙げられます。これは技術というより制度とエコノミクスの問題です。もちろん、そういう制度が変わり、経済性の重力に反しない事業環境が整えば参入は考えますが、僕らから無理をして参入する必要性は感じていません。

 

ーー これからテレイグジスタンスの技術が普及するのにどの程度の時間がかかると考えていますか?

 

チャリス あまりかからないと思います。今はテクノロジーブームなので、AIスピーカーの登場やパソコンのスペックも1年で2倍になるような進歩をしている時代ですよね。人にも変化があって、若い人たちが技術を使うなど、技術を好きな人が世の中に増えている。事業者としては買う人がいないと作る意味がないので、技術の新しい発展と、それを受けいれられる社会であることが重要で、今、その両方が揃っていることはありがたいことですね。

 

ーー ありがとうございます。最後となりますが、CiP協議会は去年の夏に竹芝埠頭で、Doubleというテレプレゼンスロボットを使って小笠原など遠隔地の人が「竹芝夏ふぇす」という毎年開催しているお祭りに参加できるという企画もやっていたので、竹芝でテレイグジスタンスをやりたいです。
  ※2 Doubleとは、Double Robotics社の開発したテレプレゼンスロボット。
  (https://www.doublerobotics.com/

 

チャリス 竹芝にテレイグジスタンスロボットが歩き回っていたらおもしろいですね。竹芝は小笠原諸島などの島しょとの玄関口なので、コンセプトを実証するのに適した環境だと感じます。他にも僕らがやりたいことと竹芝のイメージは色々マッチしていますし。また、実証実験から次にいける場所でもあると思うので、2018年は僕ら的にもロボットが出来上がって、まだ内容は言えないんですが実験をするタイミングであるので、今後何か出来るといいですね。

 

 
 

TELEXISTENCE inc.

 

テレイグジスタンス(TELEXISTENCE/遠隔存在)とは、TX incの創業者の一人でTX会長でもある東京大学名誉教授 舘暲氏が1980年に世界で初めて提唱した、人間が、自分自身が現存する場所とは異なった場所に実質的に存在し、その場所で自在に行動するという人間の存在拡張の概念であり、また、それを可能とするための技術体系です。

 

TX incのミッションはこの技術の産業化を実現し、個人、企業、社会の生産性を飛躍的に向上させることです。