ぎゅぎゅっとてんこ盛り : 第2回 夏野剛さん -後編-

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各分野の最先端の方々にお話をお伺いするインタビュー企画。第二回のゲストは夏野剛さん。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授のほか、株式会社ドワンゴの取締役をされており、NTTドコモ時代にはiモードを立ち上げたメンバーの一人として知られています。今回は、夏野さんの見据える技術の展望について、ドワンゴ本社までお話を伺いに行ってきました。今回は後編を公開します。
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—自由に情報が取れることで変わる生活—

 

ーー どんなコンテンツや技術に着目していらっしゃいますか?

 

夏野 コンテンツへの着目はないです。コンテンツっていうのは今までにない価値を示した時にその存在がブレイクするので。つまり、今その話をしても意味がないんです。今この瞬間にどこかで仕込まれてて、これから出てくるものが面白いはずなのです。注目されるべきだ!って思ってないようなものが出てくるのがコンテンツ業界の良いところです。
 技術に関して言うと、個別の技術でVRが面白いとかっていうのは、枝葉末節の話なので。AIやIoTが本格的に社会の中に入りこんでくることで、どれくらい社会環境に変化があるかが僕は楽しみです。

 

ーー AIによって処理できる情報は増えてくると思うのですが、どういった情報を私たちは今後得ることができるようになると思いますか?

 

夏野 僕は今、全ての衛星データのオープン&フリー化ってことに取り組んでいます。これまで利用しにくかった精緻な位置情報を含む衛星からのデータを無料、あるいは安価に分析できるようになります。
 どこにどんな建物が建っていて、どんな車がどこで動いているかっていう、ビッグデータが解析できるようになります。渋滞の予測をする人が出てきたり、行楽地の人間の移動がどうなっているのかは全部空から見える。その土地で最適に作れる作物とかも全部分かります。衛星は光学衛星だけじゃなくて、土壌の変質まで分かる、いわゆる解析ができるAIセンサー系の衛星もたくさんあるので、色々なデータ取れます。そういった、今までわからなかったことがたくさんわかってきます。

 

ーー これから必要になる情報はどのようなものでしょうか?

 

夏野 どんな情報が必要になるか、って話ですね。取りたい情報は、なんでも取れるようになる。だから仮説の設定がすごく大事で、現金授受が一年間にどれだけ行われているかっていうデータがPOSから出てきて連結されることで現金授受の非効率性の実態が正確に分かるんです。
 データがあれば何をしたいかは簡単です。日銀に電子マネーを発行させたい。今までの電子マネーの最大の問題点は発行手数料を民間が支払っていること。お札を印刷するコストは税金で払ってる。この状況を直したいって目標を設定したら初めてビッグデータが活きてくる。

 

ーー そのようなビックデータを誰もが見られるようにすべきなのでしょうか?

 

夏野 もっと気楽に考えていい。例えば、今日のUV指数っていうのは東京とか時間単位で出ているけど、女子にはとても重要じゃないですか?それによって今日は日傘を持って行くか、どんな日焼け止めをつけようか判断するわけです。そのデータは取れていて、予測もできているんですよね?でも、まだ情報が手に入るようになってないなら、もしそれが手に入るようになるだけで生活が変わるのではないでしょうか。

 

ーー 確かに服の選び方も変わりますね。

 

夏野 なるほど、服の選び方が変わるのですか!これですよ!そうするとアパレル、例えばユニクロは駅で売っているものを毎日変えますよ。羽織るものを忘れて半袖で来ちゃった人に売るために。そうすると経済活動も変わります。こういう話です。

 

ーー 問題の発見、仮説の設定はどうやったらできるようになりますか?

 

夏野 ヒントは超身近にあるんです。あれがおかしい、こんなデータがあれば便利なのにということは普通に生きていれば気づきますよね。問題の発見や、仮説の設定のために「一生懸命頑張る」っていうのは意味がない時代になります。なぜならコンピューターが「一生懸命頑張る」ような面倒なことを全部やってくれるようになるからです。だから好きなこと、自分の興味のある分野を掘っていった方がいいです。

 

ーー 夏野さんの好きなこととか、興味のあることはなんでしょうか?

 

夏野 僕は、世直しが好きなんです。おかしいなあって思うところに対して指摘し、それを解決する策を提示し、出来ればそれを自分の事業としてやらせてくれ!って。世直しが趣味なんです(笑)。
 あとはワインとか美味しいものも好きだけど、そういう意味で関心あるのは、食べログを凌駕するサービスをいかに構築するかということですね。美味しいものっていうのは、その人の舌が肥えているかで全然違うわけです。その人の舌が肥えているかどうかを考慮せずに打ち込んだランキングは全く意味がないと思ってます。一定のニーズはあるので数値化はした方がいい。これをどうやって事業化できるかとかシミュレーションしてます。しかしながら、こういう事業をもし成功させたら、本当に僕が好きな隠れ家の店の予約ができなくなってしまいますけど(笑)。

 
 

—携帯からインターネットの世界を提供したiモード—

 

ーー iモードを最初に作ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

 

夏野 97年の頃はパソコンの普及率が非常に低く、高価なものだったんです。パソコン向けの通信インフラと回線ネットワークも非常にプアで、9.6kbpsとか28.8kbpsの接続速度だった。僕は新しいインターネットのサービスを立ち上げるベンチャーをやっていましたが、そもそもの母数のユーザーが少なかったんです。そのベンチャーが上手くいかなくなった時に、ドコモからケータイとインターネットを繋げたサービスを考えたいと提案があった。
 そこで気づきました。なんだ、ケータイがあったかと。ケータイをインターネットにつなげば、PCを普及させなくてもいいと思った。PCが普及してないから、ケータイをインターネットに繋げば、インターネットの便利な世界をすべての人に提供できる。これは大きな社会貢献になるぞと思いましたね。

 

ーー その中で普及させるためにどのような施策をとられましたか?

 

夏野 コンテンツが大事っていうのは当たり前なんです。ケータイを使いたいわけじゃなくてコンテンツを使いたいわけですから。ですからコンテンツのポートフォリオを作り、銀行が乗れば周りの人も乗るだろうということで銀行から口説くとかやりました。次に、ゲームやアプリがダウンロードできる方が良いのでiアプリができて、これがAppStoreの原型になったわけですよ。楽しくなくて便利じゃないことは作るべきじゃないです。

 

 
 

—制度を変えることで見込める社会の変革—

 

ーー 今の子供はどんな未来に直面するでしょうか?

 

夏野 それは国によって大分変わって来ます。日本の場合はこれから縮小する国だということが未来に大きく影響を与えます。日本の最大の問題は老人が多すぎることです。税金の大半が老人のために使われている。老人は子供産まないし生産もしない、つまり再生産の可能性が小さい。老人に対する、つまり将来に繋がりにくい投資に、国の予算の半分以上が注ぎ込まれているので、この状況をどうするのかっていうのが、日本の子供たちにとっての最大の問題です。

 

ーー 我々学生や、大人は何をしたらよいでしょう?

 

夏野 もっと拡大再生産できるように社会の常識を変化させていくという手段もあります。
 つまり、子供産みやすい環境を整備したり、婚姻制度を変えたり。一夫一婦だから60になって子供を作る人がいないわけです。ですが今では再生医療の発展で、50代でも子どもを産めるようになった。ところが、精神的には20年間も同じ相手と恋愛は続きません。フランスでは、婚姻しているかどうかをほぼ関係なくして、相続権はすべての子供にあるようにした。結婚前の届け出をすることで、事実上の法律的なパートナーとして準結婚のような扱いになるようにした。その後、一次は日本と同じ水準だった出生率は今では2.00を超えた。そういう社会制度の変革を常に検討していくことが大事でしょう。
 つまり、高齢化の1番の問題点は、人道的な観点を無視すれば、純経済学的に言うならば、投資をしてもそこからリターンがないこと。リターンとは、経済活動のリターンか、人口を増やすといった、社会にとっての、個人との関係性のリターン。だからまず高齢になっても働けるようにする事も重要。定年を75歳にすることは僕は絶対やるべきだと思っている。あるいは、婚姻制度を大々的に改革して、50と60でふたたび子どもを作る事が普通になってもいい。アカデミックな場にいると、人道的倫理的な視点を除いた純粋議論ができることがいいんです。テレビのコメンテーターとして言ったら大変な炎上になるようなことも、学問的な立場から理論的にはこういう考え方もできますって言う分には社会的な問題にはなりません。これがアカデミックの強さです。

 
 

—好きな事からも価値が生まれる時代—

 

ーー 夏野さんは10年後なにをしてらっしゃると思いますか?

 

夏野 全くわからないですね。10年前に今どうなっているかについても、20年前から見た10年前の姿も想像できなかったですから。しかし、それが今の生き方だと思っています。10年後の目標を見据えて、それに対して努力するってことがこんなに虚しくなった時代はない。つまり、努力しないとできないようなことは極められない。好きなことをやるのが大事なんです。だから我慢、努力、忍耐とか言っているうちは極められない時代が来てしまったんですよ。

 

ーー だからこそ楽しいことやエンタメが大切になってくるんでしょうか?

 

夏野 僕にとっては、世の中の真理がどうなっているかについて議論する事が楽しくてしょうがない。それはスマホのゲームをやっているより楽しい。エンタメ産業ってレベルの話ではなくて、一人一人が自分の面白いと思えるものや、興味がある楽しいと思えるものに、とことん突っ込める社会をどうつくるのかっていうのが大切だと思うのです。どんなくだらないものでも、他人がやらないくらいに突き詰めれば何らかの成果が出てくるんです。新しい考え方とか、新しいビジネスとかが必ず出てくるんです。
 「痛車」は何の生産性も無いかと思っていたら、車のペイントという廃れてた業界を復活させた。一般人が買えなかった、ものすごい色のラバースプレーとかが、今やホームセンターとかに行くと売っている。デコトラとかもそうですね。本当は著作権法違反かもしれませんが、商売にしているわけではないので(笑)。
 だから突き詰めれば、そこにファンが生まれれば、ビジネスが回って経済価値を産む。どんなくだらないことでも。くだらないかどうかを決められる人は誰もいないので、好きな人にとってはそれが価値になる。
 これからAIなどのコンピューティングテクノロジーがどんどん進むと、ますます、イヤイヤ仕事をする時間が少なくなって、好きなことをやる時間が長くなります。好きな事で収入も支出もあって生活はできて、経済活動もまわるので、大丈夫です。

 
 

—時代と共に柔軟に対応すること—

 

夏野 大昔は食べていくために、みんなで農業をやっていたんですよ。その後、農業器具と肥料が発達して、少ない人数で全体の食料を賄えるようになった。
emsp;手が空いたのでみんなで道具作りをした。すると、産業革命で機械が出てきて全員でモノを作る必要が無くなった。そして、今では人が人の相手をするサービス産業が8割近い。常に新しい仕事、ビジネスが生まれている。だから、産業革命以前の方たちにはおそらくディズニーランドっていうビジネスは理解できないんですよ。
emsp;これからAIが入ってきて、さらにいろんなテクノロジーが出てくる。もう嫌なことはやらなくて良くなるから、ますますフリータイムが増える。そこに需要が発生するから、誰かがそのビジネスに参入していくんですよ。それが「痛車」のペイントだったりするわけです。人間がいる限り仕事はいっぱいあるんです。だから柔軟に、柔軟に。
emsp;何が起こってもおかしくないって思っているのが一番強いです。好きなことをしていれば、世の中が対応してくるから大丈夫。自分が対応しなくていい。自分の好きな人たちや、自分のやっていることを評価してくれる人たちがSNSで100人いれば生活は成り立つんですよ。Twitterは、別に仲間を集めようと思って発言しているわけではないです。生き様を書いて時々炎上するわけです。すると、100人にめちゃめちゃクレームを言われて、でもフォロワーは5000人増えるんですよ。

 

ーー フォローをさせて頂いているんですけど、結構炎上されていますよね。心にダメージ受けたりとかはしないですか?

 

夏野 いや全然。どうせ炎上を煽っている人はいい加減にツイートしているだけですから。心にダメージを受けるというのは、不用意な発言に想定外の反発があって、それは自分が悪いなあと思っているときに起こることだと思うんです。僕の場合、意図的に発言しているのでそんなことはありません。最近はNewsPicksをやっているからTwitterを少しおろそかにしています。NewsPicksの方が長くコメントを書けるので読者の誤解が少なくて、炎上が少ないんです。なので、時々わざと炎上ネタを仕込んだりします(笑)。

 

ーー 最近は何を呟いたんですか。

 

夏野 ちょっとアメリカの田舎に行くのに国際免許を取りに行った。そしたら、免許証と渡航を証明するものとして、パスポートか、航空券のチケットを見せろって言われて。パスポートを持ってこなかったので、航空券のeチケットをiPadで見せたら「いや紙でお願いします」って。でも、その紙のチケットは提出する訳でも無く見せるだけのものだった。案の定、事前に必要なものをチェックしてこなかった方が悪いって炎上しました。ですが、渡航を証明するものでパスポートを見せるだけというのもおかしい。今時、10年パスポートを持っているから、パスポートを持っているだけで渡航するかどうかは判断できない。渡航を証明するものをコピーもせずに、ただ係官が見るだけなのがそんなにだいじなのかと。ありえない、というようなことを呟いて。
 でも誰かが呟くと気づく人がいる。多分、警察庁で見ている人もいる。もちろん指摘するだけで修正される直る流れになるとは思わないですが、指摘し続けることで、何か動きがあった時に多分直る方向に進むんです。少なくとも40万人のフォロワーはは見ていてくれるからと思っています。

 
 

—AIなどの技術が発展する中で必要とされるような2つの「ソウゾウ」性とは—

 

ーー 衛星データを含めたビッグデータ、IoTなどの進展が進むと、AI対AIみたいな読み合いが起こると想定されると思います。そういう時に人間の役割はあるのでしょうか。

 

夏野 将棋の時に証明されましたが、過去にないものを示したらAIは混乱する。僕は、これからの人間に必要なことは、二つのソウゾウって言っています。イマジネーションの「想像」と、クリエーションの「創造」。この想像と創造は、AIにはできないです。AIは頭が良すぎるので、過去のデータを大量に持っていてそれを元に判断する。今、AIって言われているものほとんどが、統計学の世界なんですよ。確率的に一番高いものを選択して出しているだけなので過去に存在しない手を使ったら勝ち。だから人間の果たす役割は無くなりません。全ての人間の行動がAIによって予測されることも無いです。あくまで確率だから。

 

 

ーー 子供の「ソウゾウ」力を高めるために何をすればいいでしょうか。

 

夏野 子供はもともと「ソウゾウ」的なんです。だから、逆に余計なものを教えないことの方が大事。よけいなものを教えないために義務教育で何を教えるのか。逆に考えた方がいい。
 今、スポーツの世界では、小学生の間にそれぞれの競技で将来性のある子どもたちを発掘しようとしている。そして小学生だと嫌いなものは長続きしません。好きなものだとどんどん追求するのでどんどん能力が伸びる。これがいい例だと思います。野球やサッカーのようなメジャースポーツじゃなくていいのです。自分の好きなマイナースポーツを小学校低学年くらいから始めた子たちは、すぐにジュニアオリンピックに出られます。マイナースポーツだから出られるんです。フェンシングでは、小学校5年生でいきなりドイツの世界大会に行く子とかいるわけです。
 「ソウゾウ」性を育てようじゃなくって、向いていて自分が苦にならない好きなことに出会わせようっていう方向に観点を変えた方がいいと思う。申し訳ないけど、教育関係やっている人たちにクリエイティブな人は少ない。教育産業に行く人も優秀な人は少ない。
 教える、育てる、とか言っている時点で上からの目線だと思います。もっと自然に好きなことに出会うためのプラットフォームがあればいいと思う。いわゆるキッザニアみたいな、いろんなことが経験できて、一生の趣味にしたいって思えるものが見つかるプラットフォームを作っていくということです。

 

ーー キッザニア以外にそのようなプラットフォームになりえるものとかありますか?

 

夏野 キッザニアは職業体験の場なので、教育ではあらゆるスポーツをしたり、アートに挑戦できる場を提供すればいいと思う。「ソウゾウ」的なことを行う時間が少なくなっているなら、算数の時間をやめればいい。あらゆること体験した時に、もっとやりたいと思うものが何個残るかをみてみる。それを一年生で、100個経験させて、ハマったと思った20を2年生で経験させて、3年生で5に絞り、4・5・6年生で一個に絞って行く。そこまで極めれば、最後はAO入試で十分通じる実績になります。だから安心して勉強しなくてもいい!

 
 

最後に取材陣をこの言葉とともにお見送りしてくださいました。

 

「社会は変えられる。素直にそのまま受け入れるのはよくない。」

 

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慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授
夏野 剛(なつの・たけし)

 

【略歴】
1988年早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。95年ペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモへ。
99年世界初の携帯電話を利用したインターネットビジネスモデル「iモード」サービスを立ち上げ、2001年 ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選出される。2005年ドコモ執行役員、08年退社。
現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、ドワンゴ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、グリー、DLE、U-NEXT、日本オラクル、Ubicomホールディングス、クールジャパン機構などの取締役を兼任。 経産省・IPA 未踏IT人材発掘育成事業統括プロジェクトマネージャーや、各省庁の委員会の委員、審査委員等も務める。フジテレビ「とくダネ!」などのテレビ番組や新聞、雑誌、インターネットにおけるメディア登場数も多く、各方面にわたりITを利用した社会変革を促す講演には定評がある。 また、
HTMLの標準化機関であるW3C(World Wide Web Consortium)のアドバイザリーボードメンバー(2009-2013)、ダボス会議で知られるWorld Economic Forum (WEF) Global Agenda Council Member (2009-2015)も務めた。 

著書『ケータイの未来』『脱ガラパゴスの思考法』『iPhone vs.アンドロイド』『なぜ大企業が突然つぶれるのか』『ビジョンがあればプランはいらない』『「当たり前」の戦略思考』等多数。ブロマガ: http://ch.nicovideo.jp/natsuno