ぎゅぎゅっとてんこ盛り : 第2回 夏野剛さん -前編-

◀ 「ぎゅぎゅっとてんこ盛り」もくじへ

 

 

各分野の最先端の方々にお話をお伺いするインタビュー企画。第二回のゲストは夏野剛さん。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授のほか、株式会社ドワンゴの取締役をされており、NTTドコモ時代にはiモードを立ち上げたメンバーの一人として知られています。今回は、夏野さんの見据える技術の展望について、ドワンゴ本社までお話を伺いに行ってきました。今回は前編を公開します。
後編はこちら

 

—日本のイメージが変わるような特区を目指して欲しい—

 

ーー CiP協議会では東京の竹芝を拠点にコンテンツとデジタルの産業集積地としての特区の可能性を探っています。夏野さんが考える特区の活用の仕方を教えてください。

 

夏野 竹芝は場所的制約が大きすぎるので、知財特区がいいと思います。竹芝のビルの3フロアを知財特区にして、そこでは、全ての日本のアニメなどのコンテンツをすべて見られるようにする。例えば海外の放送局の人が試しに日本のアニメを見たいと思ったら、まずお金を払わないといけないんですよ。払う前に見たいだろ!って思うのが普通ですよね。技術的には版権を持っている事業者のサーバーからネットで引っ張ってくるだけなんだけど、物理的に竹芝で全部見られるようにする。
 アニメと共にマンガもそうしたいですね。海外の人たちは日本のマンガとアニメを常時見られないんですよ。昔のコンテンツが見たいと思ったらTSUTAYAに行ったり、版元に掛け合わなければいけない。それは手間です。見られる場所は1ヶ所に固まってないと不便です。ならば、デジタルアーカイブにして、全部見られるようにすればいい。物理的に著作権の制約を解いた場所を作ったらもっと多くの海外の人たちが簡単に日本のコンテンツに触れることができる。例えば、特区なので、字幕がない作品にキャプションとか自動翻訳をつけてしまうとかもできます。公式のキャプションがあるならもちろん出せばいいのですが、ない作品の方が多いですよね。作者の理解なくキャプションを出しちゃいけないという主張は、特区なんで、適用されませんって。それでも嫌だったら竹芝ではアーカイブできません。という風に。
 また、ドラマと音楽映像のアーカイブ。全部をアーカイブして見られるようにする。一部のネット嫌いな芸能事務所が対抗してきても、特区ですから変えられませんって。これを物理的な場所、竹芝でやる。
 コンテンツは出版社や放送局のサーバーと連携しているけど、そのコンテンツを見るためには物理的にその場所に来ないと行けないという風に運営すれば、著作権者たちはなんとなくホッとする。いいと思いませんか?これをクールジャパンの有識者会議でも主張していますので、竹芝でぜひやってほしい。応援します。

 

 

ーー 竹芝という土地の特性を活かすためにはどのようにすべきですか?

 

夏野 東京以外の地方の特区は、もともと地理的にハンデがあるようなところの特区が多いので、競争力があまりない。竹芝は東京都内特区で、銀座などの繁華街が近くて立地がいい。他の特区でもできるようなことはしないで、東京のど真ん中で思いっきりぶっ飛んだことやると、インバウンドにも大いに貢献すると思うんです。日本のイメージが変わるような特区を目指してほしい。

 

ーー オタク研究所も立ち上げるので、その辺も推進力にしていければ、と思います。

 

夏野 オタクのようなものはすごく大事なので、結びついておきつつ、国家戦略特区や知財特区のような、国家に意義があって歴史に残るような特区にしてほしい。そこに行けばなんでも日本のアニメとかマンガのストックが全部フリーで見られるならそれでいい。

 
 

—技術がどのように社会に受容されるかが問われる時代—

 

ーー 今までに無かった新技術によって、どのように暮らしやビジネスが変わるとお考えですか。

 

夏野 全部に共通することなんですが、特にIT革命が起こってからの20年で、21世紀の技術は我々の生活のあらゆる面を変えています。だから、(どのように暮らしやビジネスが変わるか、というのは)恐らく愚問なんでしょう。技術が社会をどのように変えるかは、技術が来ないと分からないじゃないですか。今までできなかったことを技術が可能にするということは、当たり前ですが、我々の生活もビジネスも全て変わるということです。このことに対してどれだけ敏感になれるかが、これからの国の将来や組織、個人の人生に影響を及ぼしてくる。
 僕は『テクノロジーのソーシャル・アダプテーション』という言い方をしていますが、技術がどのように社会に受容されていくかということが、今これほど問われている時代はないと思っています。
 テクノロジーの進化で、「あ、こういうことができるようになった」で終わっているのが日本だと思います。本当に我々が真剣に考えなければいけないのは、今まで出来なかった事が出来るようになる事により、我々の今の生活や制度といった人間の側のシステムをどう変えなければいけないのかっていうこと。それをだれも真剣に考えなかったのが日本の失われた20年間だったと思うんです。例えば、インターネットで検索という仕掛けが出てきたら、それがでてきたことによって我々の教育のシステムをどのように変えるべきかを真剣に考えなければいけない。ですから質問は、「技術によってどう変わるか」ではなく、「技術によってどう変えるか」で、それを「変えないできた」のが、過去20年間なのです。
 過去20年間でたくさんの、Google、Amazon等、今あるネットサービスのあらゆる技術が出てきました。これだけたくさん技術が出てくると、経済学的に言うと生産性が上がるはずです。
 対して日本では1996年と2016年で0.9%の人口増加に対し、GDPは2%上昇なので、生産性はほぼ変わってないのです。一方、アメリカは人口増加が20%に対してGDPは129%増。つまり日本は過去20年間大失敗だったと言えます。
 
 なぜこんなことが起こったか。
我々の生活、ビジネス、社会が技術によってどう変わるかっていう姿勢は「受動」なんです。もっとアクティブに社会システムを変えなければいけなかった。しかし、変えないことを選択してきた20年間なので、テクノロジーの進化によってもたらされる、ものすごく大きな果実を全部食いつぶしてきちゃったんです。これはすべて我々が我々を変えなかったから。だから、技術によって社会は変わるものじゃなくて、変えるものだったというのが答えです。

 
 

—社会が変わることに対するマインドチェンジの大切さ—

 

ーー 既存のビジネスにAIやIoTなどの新技術を活用して社会に受容されるための仕組みとはどのようなものでしょうか?

 

夏野 社会や、自分のビジネスをAIやIoTを駆使して変えようとする人、変わろうとする人が社会でちゃんと成果を受け取れるような社会にしていかなければならない。
 今までの日本では、変えよう変わろうっていう人は、大体ひどい目にあってきました。例えば、金子さんっていう人は世の中が変わるかもしれないと思って『Winny』というファイル共有ソフトを開発して世に出したけれど、逮捕されちゃった。でも同じことをアメリカでやったショーン・パーカーは、巨額の富を手にした。その変えよう変わろうっていうのが、社会にとっていいことなんだと、マインドチェンジをしていかないと、また日本は失敗してしまう。

 

ーー なかなか受容されにくい現状があるのはなぜなのでしょうか?

 

夏野 受容されにくい訳じゃないんですよ。受容したくない人たちが力を持っていて、結果的に国全体が成長できなかったというのが過去20年間。なので、このままで行くなら、日本は間違いなくもっとダメになります。

 

ーー どのようにして変革の弊害となるものを変えるべきなのでしょうか?

 

夏野 例えば、政権の評価をするときに、総理の友達に新しい大学の免許を与えたんじゃないかっていう騒ぎ方をしても実体経済には何の影響もないので意味がない。それよりも、安倍政権の5年間でどれだけのモノが変わったか、その前の3年間の民主党政権ではどれだけ変わらなかったかを比較を我々はするべきです。
 アカデミックも含めて、社会や日本の国全体のフレームワークをどうするべきかの提言をする人が誰もいないのですが、やはりそういうことを考えている人が積極的に発信して行くってことが大事。例えば、この特区制度っていうのも、今、本当に危機に瀕しているんですよ。でもそれは特区制度の評価によって危機に瀕しているんじゃなくて、関係者だけが良い思いをするのではないかというイメージによって危機に瀕しているんですよ。
 こういう議論をしてないで、政策の効果やリーダシップの評価や経営の評価を定量的かつ現実的にしていく事をもっと進めていかなくてはならないですね。

 

 
 

—今までにないものをやるドワンゴ—

 

ーー ドワンゴは革新的な取り組みをしているかと思うのですが、どのようなことを狙いとしているんでしょうか?

 

夏野 ドワンゴがやっていることは、本当はあっていいはずなのに、今存在しないものを作る。それだけなんです。僕らは、リアルな場所がある方が人は喜ぶっていう仮説を持っていた。ニコニコ超会議もそうですけれど、多くのオタクの人が胸を張って集まれる場所があったらいいのにと思い、実際やってみたらそうだった。とにかく、誰もやらないようなことや、まだ気づいてないようなことをやるという主義でやっています。

 

ーー そこに技術が絡んでいくのでしょうか?

 

夏野 思いっきり絡んでます。誰もやらない、やったことのない、まだ気づいてないことを可能にするのが技術なんでよ。技術が無ければできないので。だから、技術はそういう意味でツールとして使って、アウトプットを出している。

 

ーー それがコンテンツになっているのでしょうか?

 

夏野 コンテンツを最初から作ろうとしているんじゃなくて、その時のユーザーの方、あるいは対価を支払う人が、一番喜ぶ、あるいは一番得したと思えることを提供しているのだと思います。

 

ーー どんなものが一番ウケてきましたか?

 

夏野 ウケてきたものは、ニコニコみてもらえれば(笑)。ただし、前と違うのは、これがウケましたってことを作らないのがニコニコ。人によって違うから。もともと好みが違うのに、「すごくハマるもの」とか「大ヒットを狙う」って言っている時点で20世紀の考え方なんですね。これだけ多様化している時代で、違う方向を向いているのだから、「俺にとってのニコニコ超会議!」とか、「私はここに行く!」っていうのがバラバラでなければ、ニコニコの意味がないと思っています。ヒットしたものが一個だったらテレビでいい。だからわざと、普通若者があえて好きにならない物にお金をかけます。例えば、将棋とか、相撲とか、歌舞伎とか。つまり、自発的に若者やユーザーにブームにならないものだけをこちらから仕掛けています。

 

ーー なんでネットユーザーにはそのようなものが刺さってこなかったのでしょうか?

 

夏野 気づいてないとか面白くないとか色々あると思います。例えば、将棋だったら、AIと戦わせることを最初に始めたのが僕ら。そういうふうにして面白くする。それから、歌舞伎と初音ミクをコラボさせたり、相撲は「リアルSUMOU」をやったりしています。

 
 

—個別最適と全体最適が見えることによってわかる解決策—

 

夏野 僕もそうだったのですが、学生の時って、世の中がこう動かないのは何か理由があるはずだとか、変わらない現実がなんで変わらないのかを分析しようとかすると思うんです。その視点で分析をするのであれば、なぜ日本だけ変わらないのかって考えるべきです。日本はガラパゴスなので、イレギュラーなものを解析しても、実は普遍的なものは見つからないんですよ。
 つまり、変わらない現状はなぜですかっていう質問は、変わらないってことが現場にあって、それが普遍的なものだから理由があるはずだって掘っていくけれど、変わらないのは日本だけなんですね。日本のイレギュラーな状況を分析するには、そのイレギュラーさを分析しなきゃならない。変わらない理由は普遍的ではないので、イレギュラーな部分は何故なのかって掘った方がいい。

 

ーー 学生の時の問題意識はどのようなものだったのでしょうか?

 

夏野 今も問題意識は変わらないんですけど、なんでまともなはずのものが、まともに運営されないんだろうってすごく思ってます。誰がみてもおかしいことが世の中にたくさん残っているじゃないですか。世の中に残っているから正しいって思う人と、世の中に残っていることがおかしいって思う人がいるんです。組織に巻かれている人の多くは前者です。でも誰がみてもおかしいことが、残っていることがおかしいじゃないですか。僕はおかしいと思う人間なのです。
 例えば、なんで、日本では小銭を現金でいちいち払わなくてはいけないのか、と思っています。またなんで消費税を8%にするんだよ!って思っていました。10%にした方がいい。なぜか。10%だと1円玉がほぼいらなくなります。1億2700万人が一日に2回買い物するだけで、2億5000万回の現金の授受が発生するわけですよ。これを現金でやっている事がすごく無駄じゃないですか。おかしいと思っているから、電子マネーを作り、おサイフケータイを作ってなんとかシフトしようと思ったわけです。現金を使い続ける状態が正しいとは思わないから。

 

ーー 他にもおかしいと思うことってありますか?

 

夏野 今も山ほどあります。できるのになんで一般化しないのかは、一般化しない方が正しくて、おかしくしていることで得する人々が必ずいて、維持した方がいいという人がいる。でも、それが全体最適にはなってないのです。
 今になって思うのですが、日本では個別最適と全体最適の問題があまりに解けてない。個別最適と全体最適をいかに一致させるかっていうのが、いわゆる政治が考えなきゃいけないことのはずなんだけれど、政治が個別最適を求めてしまうケースも多い。いわゆる獣医学部の話とか。個別最適と全体最適が一致したときにものすごく大きな力が社会にもたらされる。それは全体最適なので、おそらく多くの人にとっては幸せになる。でも、一部の個別最適の人にのみ嫌われる。
 だから、個別最適と全体最適のリバランスの実験場が特区なのかと思います。この個別最適と全体最適のバランスが、時代とか、テクノロジーによってどんどん変わっていくわけですよ。常にいろいろトライしながら、全体最適と個別最適のマッチングがベストでできる点を探さなきゃいけないんですね。日本がこれを怠ってきたのがこの20年間と思っています。

 

ーー どんな状態が最適であるかは、AIなどの分析ツールを使うことで見えやすくなったりするのでしょうか?

 

夏野 AIを使うのは人間なので、AIに何を分析させるかの時点で個別最適とか、全体最適は決まる。AIは全体最適とか個別最適については決めないので、AIを単独で語るのはあまり意味がありません。AIは IoTとセットになってその重要性が増す。AIによって大量の人間が扱えなかったデータの中から真実を発見するってことが可能になる。AIによって全体最適が見えやすくなるんです。
 問題はそれを認めるかどうか。例えば、2億5000万回も現金の授受に20秒ずつかかっていたら、どれだけ無駄があるっていうことが具体的なデータでわかるわけです。僕が言っているのは大体のざっくりとした数字だけど、AIとIoTで分析すると、実際にどれだけの経済損失なのか、金額で出るわけです。そうすると動かざるを得なくなります。もちろん、AIとIoTを、都合よく使うと、個別最適に悪用できるかもしれない、ただ、全体最適が見えやすくなることは間違いない。

 

 

後編はこちら

 
 

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授
夏野 剛(なつの・たけし)

 

【略歴】
1988年早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。95年ペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモへ。
99年世界初の携帯電話を利用したインターネットビジネスモデル「iモード」サービスを立ち上げ、2001年 ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選出される。2005年ドコモ執行役員、08年退社。
現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、ドワンゴ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、グリー、DLE、U-NEXT、日本オラクル、Ubicomホールディングス、クールジャパン機構などの取締役を兼任。 経産省・IPA 未踏IT人材発掘育成事業統括プロジェクトマネージャーや、各省庁の委員会の委員、審査委員等も務める。フジテレビ「とくダネ!」などのテレビ番組や新聞、雑誌、インターネットにおけるメディア登場数も多く、各方面にわたりITを利用した社会変革を促す講演には定評がある。 また、
HTMLの標準化機関であるW3C(World Wide Web Consortium)のアドバイザリーボードメンバー(2009-2013)、ダボス会議で知られるWorld Economic Forum (WEF) Global Agenda Council Member (2009-2015)も務めた。 

著書『ケータイの未来』『脱ガラパゴスの思考法』『iPhone vs.アンドロイド』『なぜ大企業が突然つぶれるのか』『ビジョンがあればプランはいらない』『「当たり前」の戦略思考』等多数。ブロマガ: http://ch.nicovideo.jp/natsuno